スマホの弊害 その1

国語力の低下

 前回(2024.11月号)「2024年全国学力調査の結果から」というタイトルで、小学6年生と中学3年生を対象とした全国学力調査における中学・国語の正答率が前年度から11ポイント低下し、過去最低となったというニュースをお伝えしました。文部科学省は、出題意図や難易度が異なるので、単純な比較はできないとしていますが、会見では「SNSや動画視聴の時間については、中学校で少し増えてきている。ゲームや動画視聴などにとられる時間が多いほど、正答率が低い」とも伝えられました。
 携帯電話・スマートフォン(以下「スマホ」)は、読解力や表現力にどのような影響を与えるのでしょうか。

スマホ読書の特徴

 国立情報学研究所の新井紀子教授によると、スマホの使用時間が長くなると、文章の全体を見ずに情報の一部だけを切り取って短絡的な判断をする「キーワード読み」が進行するといいます。
 「SNSなどから流れてくる情報量はあまりに多いので、人はその洪水の中でなんとか読まなきゃいけないと思い、その結果、流し読みをしたり部分的に読むというようなことが起きてしまう」と、情報過多社会の弊害を指摘し、また「その自己流の読みはなかなか治せない。それは『読み』は脳内で起こっているので、隣の人がどういう風に読んでいるか観察できないし、改善できないから」とも述べています。
 また、起業家・投資家の成田修造氏は、東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授が実施した、スマホなどの使用と学力の関係による調査を例に出してこう述べています。
 「スマホの視聴時間が1時間以下か、以上かで学力にかなり明確に差が出る。それは別に算数だろうが国語だろうが、全ての部分で出るということ。パソコンやSNSが発達した社会で伸びる能力もあるが、一方で退化するものもある。例えば紙の本を読む時とスマホの画面で動画を見ている時の脳波の状況を確認すると、スマホを見ている時の方が、明らかに前頭葉という知的活動を司るところの活動量が減っている。紙の方が圧倒的に活発になる。そういったことが、データとして出ているんです」と、スマホ利用のデメリットと従来の学び方の有用性を強調しています。

楽をすると脳は退化する

 スマホ利用による弊害は読解力だけではありません。表現力、つまり相手に自分の考えを正確に伝える能力にも悪影響を及ぼす恐れがあります。「五体不満足」で有名な乙武洋匡氏は、実際に教育の現場に出た経験から、次のような意見を述べています。
 「ちょっと違う角度から話しますが、教育界でずっと言われているのは、例えば学年に1クラスしかないとか、6年間クラス替えがないという環境では国語力、語彙力が乏しくなる。固定化された人間関係だと、皆まで言わなくても、あいつはこういうことを言いたいんだなとすぐに分かってもらえるから、最後まで丁寧に言葉を作らなくていい。そうやって表現力が鈍化していくんです。これは子どもだけでなく、今の若者も同じで、彼らはLINEで『了解』のことを『りょ』とか、もっと略した『り』で済ませている。違う世代とコミュニケーションするならきちんと相手に伝わるように喋らなきゃいけないので『了解しました』『承知しました』と送らなければいけないけど、狭い人間関係の中でスマホばかり使っていると、そういう使い分けの能力や配慮が育たなくなる」
 ジャーナリストの池上彰氏も同様の考えを述べています。
 「文章を書く力や文章を読み解く力の対極にあるのが、絵文字やLINEスタンプです。これらが読解力や表現力低下の原因になると私は考えています。LINEでは、短い文章とスタンプで会話のようにテンポよくやり取りをする人が多いでしょう。絵文字、スタンプ、記号がないと、文章で詳細に説明しなければならないので、不便ではあります。しかし楽な方に流れていけば、文章の意味、行間などの深い文意を読むこと、すなわち読解が苦手になってしまい、さらに書く力も失われます。」